2024.8.21 取材
(所属、役職は取材当時)

- 原子力機構で働く人 -

本田 充紀(物質科学研究センター)

「毎日コツコツと、その日の自分ができる最善を尽くして頑張ることを心掛けています」と自分の信条を語る本田さん。他分野の知見を自分の研究に積極的に取り入れながら、粘土鉱物を素材とした「熱電変換材料」という未開拓の分野に前向きに挑戦しています。小さいころから物作りが好きで一つのことに集中するのが得意だったという本田さん、本稿では研究やプライベートなど色々な要素から本田さんの人柄を分析していきます。



現在の研究内容を100文字以内でご説明ください
地球上に豊富に存在する土壌中に含まれる粘土鉱物の一種で、例えばバーミキュライトに塩化ナトリウムなどを混ぜて焼き、熱エネルギーを電気エネルギーに変換できる材料「熱電変換材料」の開発を行っています。
熱電変換材料の開発に至ったきっかけを教えてください
元々は溶融塩法(加熱して塩を溶かし、その中で他の物質と反応させる方法)を使って、福島第一原子力発電所事故により発生した汚染土壌から放射性セシウムを除去する研究を行っていました。その研究過程で土壌を扱ううち、この土を使って熱から電気を取り出せる材料が作れたら面白いんじゃないかとふと思いついたんです。当時、セシウムの脱離(減容)だけじゃなく、付加価値のある材料を作ることを推進していましたので、直感を活かして開発を進めました。開発当初は熱から電気が作れますよと言っても、本当にそんなことできるの?という半信半疑の反応ばかりでした。それでも諦めずに5年ほど研究を継続し、結果がようやく出始めましたので、周りから少しずつ認知されるようになりました。過去に同様の素材の制作例はないですし、原子力機構が掲げているミッションと同じベクトルに向かって進んでいると実感できる今、この研究に携われていることを大変誇りに思います。

粘土鉱物(上段写真)に塩化ナトリウム等を混ぜて焼くことで、熱電変換材料(下段写真)を作製

普段の研究の様子を教えてください
試料を作製し、「熱電特性評価装置」で試料を測定、その結果を見て次の一手を考え、また試料作製の繰り返しです。「熱電特性評価装置」は熱電変換材料の電気伝導率、ゼーベック係数、熱拡散率を同時に測定することが可能で、室温から高温(900℃)まで温度を上げた時の熱電変換材料の物性変化を測定する時に使用します。測定条件にもよりますが、1つの試料を測定するのに17~18時間かかります。つまり、毎日休みなく稼働させたとしても1年間で365通りの測定しかできません。次の一手を繰り出すには、データの考察が非常に大事になります。
次の一手に行き詰まることはありますか?その時どうされますか?
行き詰らないように毎週オンラインで他の研究者とディスカッションを行っています。皆さんも、他人の改善点は気づきやすいのに、自分自身の改善点はなかなか気がつかない、という経験をしたことはないでしょうか。ずっと一人で考えていると視野が狭くなりますので、異なる視点からの意見を取り入れることが大事だと考えています。毎週時間を決めて、他大学や同期の研究者と気軽に意見交換をしていますが、この時間があるからこそ、行き詰まることなく研究に集中できるのだと思います。お互いの研究に知恵を出し合って、よい刺激が生まれたらいいですね。
どのようにして他の研究者との連携を増やしているのですか?
学会やシンポジウムに足を運び、異なる分野の研究者とも積極的に話すようにしています。異分野の研究者と話をすることで、お互い足りない知見を補うこともできますし、もし自分の研究とマッチングすれば、研究の幅が大きく広がる可能性が生まれます。学会にこまめに顔を出していると、そのうち誰がどんな研究をされているのか、どんなことに興味があるのか自然と分かってきます。案外相手も自分のことを覚えてくれていたりしますので、それが縁で共同研究に繋がったこともあります。少しずつ共感できる仲間を増やしてきたので、今や全国に知り合いの研究者がいます。もちろん外部だけではなく、原子力機構の内部とも知見や技術を共有しあうことで、お互いプラスになれる関係性を築いていけたらと考えています。
日頃のモチベーションの上げ方を教えてください
実は普段からモチベーションってあまり意識していません。例えば一週間のうち、モチベ―ションが高い日が2日あって、モチベーションが低い日が3日あったとします。それよりも浮き沈みなく、モチベーションが安定した日が5日あった方がトータルで考えると仕事が進む気がします。だから、毎日バランスを保ちながらその日にできることを計画的にコツコツ取り組んでいます。次の展開を楽しみにしながら、明日を迎えることも大事なことだと思います。
研究が上手くいかなかったとき、どのように気持ちを切り替えていますか?
研究はそんなに簡単にうまくいかないものだと思っていますので、失敗してもそれほど凹みはしません。日々の結果として受け止め、失敗した理由を考えることに思考を使います。失敗の中から新たな一手を学ぶことも重要ですし、たとえ上手くいっている場合でも、どこかにミスはないか?と気を引き締めるようにしています。

研究者の道に進むことになったきっかけは何ですか?
子供の頃、デパートでやっていたアポロ計画の展示に親に連れて行ってもらったのがきっかけで、宇宙という分野に興味を持ち始めました。その他にも、小学校の理科の実験が楽しかったこと、高校でアミノ酸分子を好きになったこと、あとは子供の頃からの性格も相まったりと、色々な要素が噛み合って自然に研究者の道に進んだ気がします。
子供の頃はどんな性格でしたか?
一つのことに熱中すると周りが見えなくなる子供でした。クリスマスプレゼントの超合金を一晩でバラバラにしてしまい、両親から注意を受けた記憶があります。何でできているのか、どのように繋がっているのかが気になって、ねじや部品を全てバラバラにしました。もちろん元に戻せると思って分解したわけですが、子どもの力では元の形には戻すことはできませんでした。他にも某キャラのフィギュアを分解したり、組み立てたプラモデルをまたバラして違う形に作り上げて…を繰り返したりと、何時間でも1つのおもちゃで遊ぶことができました。1つのことに集中し、深く突き詰めるのが好きという性格は昔から変わっていないと思います。
本田さんは周りからどんな人だと思われていそうですか?
「こだわりが強い」と思われているかもしれません。こだわりが強いので、例えばソース(ケチャップ、マヨネーズなど)は、それぞれこのメーカのもの!と心に決めていますので、見つけるまではお店をハシゴすると思います。ただ、それを人に押し付けることはしないのでご安心ください。また、自分が頑固なことを知っていますので、他人の話や意見にちゃんと耳を傾けるように日ごろから気をつけています。
プライベートで興味があることは?
家庭菜園です。一年に一回しか収穫できませんし、また予測できない自然因子も加わりますので、大変興味深いです。ぶどう、みかん、ゆず、ブルーベリー、ラズベリーなど色々挑戦してきましたが、家庭菜園以外の楽しみも享受しています。例えば庭にあるレモンの木には、毎年アゲハの幼虫が住みついて葉を食べ尽くしていますが、このアゲハがさなぎから羽化する様子をビデオカメラで観察したことがあります。さなぎのままぴくぴく動いた後に、瞬間的にぶわっと羽が開くんです。1回目は惜しくも見逃してしまいましたが、2回目はその一瞬(羽が開いた瞬間)に立ち会うことができました。貴重な瞬間を目撃できたことは何物にも代えがたい喜びです。ちなみにレモンはかごいっぱいに収穫できますので、レモンのシロップ漬けを作ったりして、美味しくいただいています。
今後どんな研究をしたいと思いますか?
粘土鉱物は煮るなり焼くなりして、いくらでもテーマを考えつくことができる材料ですので、熱電変換材料に注力しつつ、新たな機能性にも注目していきたいと考えています。最終的には自分の研究が皆さんの役に立つよう、実用化に繋げていきたいです。粘土鉱物から様々な機能性材料が作られ、新たな学問が構築できたら面白いですね。
最後に皆さんに一言お願いします
原子力機構は今改革期に入っていて、システム開発などを積極的に進めています。働いている皆さん一人一人が意識を持って、原子力機構をより良い研究所に変えようと頑張っていますので、私も一緒に原子力機構を盛り上げていきたいと考えています。何卒ご支援の程よろしくお願いします。

ありがとうございました

関連リンク

令和5年度萌芽研究開発制度
溶融塩電解による土壌粘土鉱物からの熱電変換材料創製
―ありふれた塩と土壌から、熱を電気に変える材料を創り出すー
https://www.jaea.go.jp/about_JAEA/fdonation/general/studies/studies11.html

researchmap
https://researchmap.jp/read0124137