2023.10.19 取材
(所属、役職は取材当時)

- 原子力機構で働く人 -

呉田 昌俊(原子力科学研究部門 企画調整室)

「後悔しないよう、今この瞬間を全力でやり切る!」武士道の教えが心に深く根付いている呉田さん。部門の業務を統括する企画調整室長としての立場であると共に、研究者としても新しいアイディアを次々と生み出し、研究開発をされています。限界を感じ研究をやめようと思った時期もあったそうです。それでも、研究と向かい続けてきた呉田さんの原動力がどこから来るのか、その秘密に迫ります。



共同研究を進めている東海村の山藤鉄工㈱の工場内にある開発現場(中央:呉田さん)

原子力科学研究部門の企画調整室ではどんなお仕事をされていますか?
予算の調整や研究環境の整備など、部門内外と協力していろいろな業務を行っています。いわゆる何でも屋で、最近は研究者の支援も行っています。一方で、実験が大好きで研究者としての活動も続けています。
研究者としても活動されているのですね?
はい。これからもずっと現役の研究者でいたいと思っています。これまで様々な分野の研究に取り組んできました。以前、研究領域の可視化を行ったことがあります。研究者は1つの専門分野に注力する傾向があるので、研究領域は1つの山として表示されることが多いのですが、私の場合は見事に3つの山が表示されました。研究内容について詳しく話そうとすると何時間も必要となるので割愛しますが、「新型原子炉や大強度加速器の限界出力に関する研究」、「中性子ビジュアルセンシング技術の開発、高速度で中性子透過像を記録する技術や4次元CT技術など」、それから核不拡散・核セキュリティ総合支援センター、人形峠環境技術センター、核燃料サイクル工学研究所とも連携して取り組んだ「核物質測定技術の開発」の3つの研究テーマに分かれます。どのテーマの研究も楽しんで思いっきり取り組みました。
多くの業績を残されていて素晴らしいです!
その分、失敗の経験もとても多いです(笑)。研究は楽しいし好きですが、上手くいかない時も多く、モチベーションが常に高いというわけではありません。実際、博士課程の2年生の時には自分の能力の限界を感じ、完全なスランプ状態に陥ったこともあります。その時は、片頭痛がひどく、研究室にさえ行けなくなってしまいました。
スランプ状態からどうやって回復されたのですか?
実家に帰った時に研究を辞めたいと両親に相談しました。そしたら、「本当に駄目ならやめてもいいけど、粘ってやってみたら?」とアドバイスをもらいました。やめるという選択肢が生まれたことで安心できたのか、肩の荷が下りて、もう一度研究と向き合うことができました。あの時やめていなくてよかったと今では心から思っています。
研究をやっていてよかったと思った瞬間は?
自分が行ってきた研究が製品化されて、世の中の役に立っていると知った時です。色んな思いがぶわ~っと戻ってきて、研究者をやっててよかったと、心の中で思わずガッツポーズを作りました。この喜びを知ってしまうと、2回目、3回目に繋げていきたいと思うようになります。皆さんにもこの喜びを味わってほしいので、目標を立てて人の役に立つ研究開発を続けてほしいと思っています。
最近はどんな研究開発をされていますか?
東海村発の産官連携として、山藤鉄工株式会社と新型ボルテックスチューブに関する共同研究を行っています。今年度で4年目になりますが、昨年度プレスリリースをして(下記関連リンク参照)、製品化に向けた開発を進めています。
これまで多くの企業と共同研究をされてきたかと思いますが、企業から学んだことがあれば教えてください
世界観や業界の事情など、とても多くのことを学んでいます。原子力機構の中にいると、原子力機構の感覚が世界の中心となってしまい、その軸がずれていても気づかないことがあります。外部の考え方や感じ方が見えなくなると、狭い視野でしか物事を考えられず、外部との連携が狭まる可能性があります。外部と積極的に共同研究を行うことで、世界観や次の連携に繋がる可能性を大きく広げていきたいと思います。
話は変わりますが、小学生の頃の夢を教えてください
ちょうど最近実家で小学生の頃に書いた作文を読みました。作文には、科学者になること、剣道の先生になること、それから美術の先生になること、の3つの夢が書かれていました。科学者と剣道の先生は夢が叶ったので、残すは美術関係です。今は仕事もプライベートも手一杯なので、落ち着いたら陶芸や絵画に挑戦してみたいと思っています。
剣道の先生をされているのですね?
はい。スポーツ少年団のコーチ(代表)をやっています。子供たちが一生懸命剣道に取り組んで、成長していく様子を見ると応援したくなります。私自身が剣道を始めたのは小学1年生の頃です。怪我をして辞めた高校1年生の時まで10年近く続けました。辞めてからはしばらく剣道から遠ざかっていたのですが、自分の子供が小学生になって剣道を始めた時に、久しぶりに竹刀を握りました。「ああ。やっぱりこれだな」と自分に足りなかったピースが埋められていく感じがして、それからはまた剣道にどっぷりつかっています。


東海村の剣道仲間(上段左から5人目が呉田さん)



剣道の稽古中「打って反省、打たれて感謝」

剣道の魅力を教えてください
大きな声を出して捨て身で打って出る、その瞬間頭にあるのはお相手との攻防だけです。「今この瞬間に全力を出し切る」本当にこの言葉がぴったりきます。これだけ集中すると、余計なことが抜けて頭の中が整理されるのか、研究の思いがけないアイディアや悩みの解決策がふとした時に浮かんできたりします。
また、剣道の道は社会生活や研究の道と通ずるものがあり、剣道に向き合う姿勢や考え方が私の人生の指針になっています。
好きな言葉は何ですか?
「我事において後悔をせず」
宮本武蔵が亡くなる一週間前に自戒の念をこめて書かれた壁書文「独行道」の一句です。中学生の時に読んだ本の中で出会った言葉ですが、今でもふいに口をついて出るくらい、心に深く沁み込んでいます。「呉田の原動力」と言っても、過言ではありません。
休日の過ごし方を教えてください
通常の休日なら剣道のコーチや大会の審判などをしています。しっかりと休日が取れるような時は、あちこちにドライブをしています。最近では昔から使っているトラベラーズノートを持って新潟までドライブに行きました。このトラベラーズノートには、いつどこで何をしていたか詳細を記録して、次に出かける時の参考にしています。ネットで検索した情報は時間のブレが大きいのですが、このノートを見ればどのくらいで到着するのか、どこで休憩が必要となるのか、予定をより正確に立てることができて便利です。
これからやってみたいことがあれば教えてください
自分自身でも研究は続けますが、研究者支援にも力を入れていきたいと思っています。自分が研究者だからこそ、研究者の大変さや悩みが分かりますし、自分の研究が社会の役に立った時の喜びも経験しています。ただ、1人でできることには限界があるので、みんなで研究者に寄り添って応援できるような新しい組織を作ることができたらいいですね。
最後に皆さんに一言お願いします
失敗を怖がらずに、大きなチャレンジをしてください。
新しいことにチャレンジした時、初めから上手くいくことは滅多にありません。それでも後悔しないように最後までやり切ることが大事です。私も若いころに多くの失敗を重ねてきました。何回失敗しても、その度に乗り越えてきた経験があるからこそ、なんとかなると思えるんです。若い時の失敗って成功と同じくらい価値があると思うので、失敗を恐れずにチャレンジしてほしいと思います。「自分の思うとおりに思いっきりやってみてください。」

ありがとうございました

関連リンク

研究者としての活動
https://jopss.jaea.go.jp/pdfdata/JAEA-Research-2022-007.pdf

様々な分野の研究
https://www.jaea.go.jp/02/press2016/p16062402/

企業との共同研究
https://www.jaea.go.jp/02/press2008/p08111001/index.html
https://www.jaea.go.jp/02/press2010/p10083001/index.html

山藤鉄工株式会社との新型ボルテックスチューブに関する共同研究
https://www.jaea.go.jp/02/press2022/p22090902/
https://yamatoh-tk.co.jp/research-and-development/
https://tenkai.jaea.go.jp/innovationplus/lounge/

東海村剣道スポーツ少年団
https://tokaikendo.wordpress.com/%e3%83%9b%e3%83%bc%e3%83%a0/

researchmap
https://researchmap.jp/90354795