2023.6.27 取材
(所属、役職は取材当時)

- 原子力機構で働く人 -

保田 諭(先端基礎研究センター)

「研究の世界で生き残るために、這いつくばりながら努力を重ねてきました」と此処までの研究生活を振り返る先端基礎研究センターの保田さん。現在、グラフェンを利用した、重水素の安価な精製手法開発に取り組んでいます。
ナノ材料研究開発に足を踏み入れて以来、がむしゃらに研究に注力してきました。必ずその先に成功があると信じ、あきらめず挑戦を続けてきた保田さんの素顔に迫ります。
ナノ研究に目覚めたのはいつですか?
大学院生の時です。大学では電気工学を専攻していたのですが、当時ちょうどナノ研究に世の中の注目が集まり始めていました。どうせやるなら未知の分野を先駆けて研究したいと思い、大学院からはナノ研究分野に専攻を変えました。時代の波にうまく乗せられた気がしますが、今思えば、まさしくあれが研究人生の転換期となりましたね。
ナノ研究の面白さを教えてください
ナノ研究って、顕微鏡のレンズを通してやっと認識できる世界なんです。その小さな世界と集中して向き合って、世界で一番初めに自分が新しいことを発見する。なんだかわくわくしてきませんか?
ナノ研究を始めた当初は顕微鏡にかじりつく毎日でしたが、今では材料の水のはじき具合や顕微鏡の光の当たり具合でなんとなく成功か失敗か想像がつくようになりました。今度こそ上手くいったかもと期待しながら、顕微鏡をのぞき込む時の高揚感は言葉にできません。望み通りの結果じゃなかったとしても、また次も頑張ろうと思えます。
小さいころ、得意だった科目は何ですか?
体育です。体を動かすのが好きで、運動会ではリレーの選手にも選ばれていました。サッカー、スキューバダイビング、スノーボード等色々経験しましたが、就職してから運動はすっかりご無沙汰です。
勉強はいかがでしたか?やっぱり理科が得意でしたか?
ただ無造作に覚えるという詰め込み式の勉強が苦手でしたので、成績はそこまで良い方ではなかったと思います。得意ではありませんでしたが、理科は好きだったので、小さい頃から科学雑誌をよく読んでいました。特に星座の本が好きで、天文学者に憧れていました。当時東京に住んでいましたが、望遠鏡を買ってもらい、星をよく眺めていたのを覚えています。東京のど真ん中でも星座ってきれいに見えるんですよ。天文学者になるのは狭き門だったのであきらめてしまいましたが、よく考えると望遠鏡でとてつもなく広い空から星を探すのと、顕微鏡をのぞき込んで小さなナノ世界を探求するのって、根本は似ている気がします。
研究をしていて、新しいアイディアが浮かぶのはどんな時ですか?
こういう時っていうのは具体的にはありません。調べてみて面白いと思ったことは、とにかくやってみることにしています。次から次へと手広く実験してみて、当たりを探していく。頭で考えるより先に手を動かすタイプなんです。
上手くいかなかった時はどのように切り替えますか?
ネガティブに考えないようにしています。原子力機構で働く以前は、研究所や大学など色々な職場で働いてきました。厳しいことを言われるのもしょっちゅうでしたが、凹んでいても結局は何も変わらないので、引きずらないようにしていました。そうじゃないと心も体ももちませんからね。うまくいかなかった原因を分析した後は、切り替えて、どんどん次に挑戦する。これが保田流の研究スタイルです。ただ、最初からこういう考え方ができるようになったわけではなく、いろんな職場を経験したからこそ身に着いたのだと思います。
研究を通して何か感じたことはありますか?
今はほぼ一人で研究テーマに取り組んでいるため、自分のアイディアで自由に研究を進めていくことができます。その一方で、研究成果を社会実装に繋げるところまで考えると、一人で対応するには限界があります。これまでも社会実装に関心はあったのですが、研究が忙しくそこまで手が回りませんでした。最近になって、産学連携活動をサポートするコーディネータの方たちに支援してもらいながら、社会実装に向けた活動に着手できるようになりました。今後は、コーディネータの皆さんと一緒に、思いがけない分野とのコラボにも挑戦してみたいです。

原子力機構のコーディネータを束ねるキャップ・中嶋さんと保田さん

産学連携活動の一環として新技術説明会にも参加されましたね。
初登壇いかがでしたか。
大変有意義な経験が出来たと思います。これまで参加した学会は専門分野の研究者が多く集まるものでしたが、新技術説明会は主に企業さんを対象とした「産学連携」マッチング会です。まずは意識を変えるところから始める必要がありました。何に重点をおいて説明するのか、プレゼン資料を効果的に見せるにはどうしたらいいのか、事前のメンタリングで色々学ばせてもらいました。今後は新技術説明会に参加いただいた企業さんを含め、外部の企業さん達と連携を取りながら、実用化に向けて共同研究を進めていきたいです。ゆくゆくはベンチャー起業も出来たら面白いですね。
好きな言葉を教えてください
定番ですが「学問に王道なし」。
自分は何でもソツなくこなせる器用なタイプではありません。他の人たちと同じやり方でやっても上手くいかないので、這いつくばりながらでも努力を重ねるしかない。いわば雑草タイプだと思っています。研究の世界は常に成果を出すことが求められ、共に研究に取り組んできた仲間が研究から離れていく姿を目の当たりにしてきました。いつかは我が道だと絶えずプレッシャーがかかる中、論文を出せば認められる、この世界で生き残っていけると自分を奮い立たせてこれまでやってきました。努力に終わりはありませんので、自分の弱さや甘さと向き合いながら、今後も自分に合ったやり方で進んでいきたいです。
最後に皆さんに一言お願いします
人生は一度だけです。悔いのないように好きなことを全力でやってください!

ありがとうございました

関連リンク

水素同位体濃縮装置:
https://jopss.jaea.go.jp/search/servlet/search?P52620
https://jopss.jaea.go.jp/search/servlet/search?P52621

日本原子力研究開発機構 新技術説明会
グラフェンを活用した水素・重水素の新規精製装置
https://shingi.jst.go.jp/list/list_2023/2023_jaea.html

原子一個の厚みのカーボン膜で水素と重水素を分ける
―幅広い分野でのキーマテリアル「重水素」を安価に精製する新技術を実証―
https://www.jaea.go.jp/02/press2022/p22083101/

researchmap
https://researchmap.jp/read0209789