2023.5.9 取材
(所属、役職は取材当時)
- 原子力機構で働く人 -
山口 正剛(システム計算科学センター)
「これまで、計算材料科学という一つの研究テーマに没頭し邁進して来ました」と芯の通った目でまっすぐ前を見つめるJAEAシステム計算科学センターの山口さん。
計算材料科学のスペシャリストとして計算機を使い、航空機や自動車などの高強度金属材料中の水素の位置を見つけ出し、水素脆化を抑制するための研究や、原子力材料の脆化に関する研究を行っています。計算機の魅力からこれから目指すものまで、いろんな角度から素顔の山口さんに迫ります。
- 計算機との出会いは?
- 大学3年の時です。元々コンピュータは好きだったのですが、大学で初めて大型計算機でのプログラミングに触れたとき、目覚めてしまいました。それからは計算機があるところ、イコール、自分の進む道となりました。
- 大学では計算機を使ってどんな研究をされていましたか?
- 希土類遷移金属化合物の電子構造の計算を行っていました。大学院に入学した当初、マニュアルもない数万行のプログラムのリストを渡されて「読め」と言われ、頭から読み始めても分からず途方に暮れましたが、出力から読み解いていって、なんとか理解してプログラムを使えるようにしていきました。
- 計算機を使ったプログラミングの魅力について教えてください
- 計算能力が高く、最先端技術の塊である計算機を使って、目の前にある分からないことを解き明かす、これが最大の魅力です。また計算機を使ってプログラミングを行った時には、フロー体験というものが得られやすいですね。「フロー体験」って心理学で使われているワードで、他のことを忘れるくらい何かに夢中になる状態を言うのですが、それが人間にとって最良の瞬間だと言われています。タスクは難しすぎても簡単すぎてもいけない。自分の持つスキルを発揮し、ちょうどよい難易度の目標を達成する過程で得られるフロー体験。自分にとってプログラミングの最大の魅力は、これが味わえることかもしれません。
- 計算機を使って、これからどんな研究をしていきたいですか?
- そうですね。私自身も研究を続けていきますが、一方でこれからは後進育成にも力を入れたいと考えています。前面に立つよりも、人が計算するのを手伝いたいですね。発達心理学で「ジェネラティヴィティ」というワードがありますが、自分の知識や技術を次世代に受け継いでいくことに今は大きく関心を持っています。コロナ禍では対面が難しかったので、オンラインを活用して大学の学生さん達に計算を教えていました。たくさんの方に計算機の魅力を知って活用してもらいたいと思っています。
- ちょくちょくお話に出てきていますが、心理学に興味が?
- 最近興味を持つようになりました。「Kindle Unlimited」で読める範囲限定にはなりますが、心理学の他にも哲学や古典などをよく読んでいます。学生の頃はこういったジャンルの本はあまり手を付けなかったのですが、年齢を重ねて経験値が増えたからか、文系理系問わず多様なジャンルの本を面白いと思うようになりました。
- 最近読んだ本の中で共感した言葉があれば教えてください
- 「三界はただ心ひとつなり(方丈記)。」
人間の住む世界である三界(仏教用語)はただ心ひとつでどのようにも変わってしまう、つまりすべては自分の心次第ということですが、今でもよく言われることです。古典を読んで思うのですが、どれだけ時代が移り変わろうと、現世の人間も800年前の人間も同じ思いを抱くようですね。人間は何百年たっても変わっていないというところが、感慨深いです。
- 小さい頃の山口さんはどんな感じでしたか?
- 小さい頃は大人しくて引っ込み思案でしたが、今と同じでマイペースだったと思います。小学校高学年の頃、将来の夢についての作文を書くという授業がありましたが、当時夢がなかったので書けないと頑なに拒否したことをいまだに覚えています。好きなことには没頭する、我が道を行くタイプは小さいころから変わりませんね。
- 大学生の頃の山口さんはどんな感じでしたか?
- 大学では好きなことの勉強に励んでいたと思います。そういえば大学生の頃、高校生向けの数学の問題集を作る会社で、解答を作ったり、内容のチェックを行ったりするバイトをしていました。自分なりに分かりやすく書き上げた解答解説がページ数やレイアウトの制限で大幅にカットされることが多く、自分が高校生の時に読んでも分からなかったのはこのせいだったのか、と、妙に納得したことをよく覚えています。分かりやすさより見た目重視だったんですから。
- 仕事をする上で大切にしていることは?
- 仕事と家庭で切り替えることかもしれません。仕事中は仕事に集中して、定時が終ったら家庭のこと(子供の送り迎え)をやるためにできるだけ残業はしないで帰るようにしていました。子供が巣立った後でもそのポリシーは変わりません。
- ご家族を大切にされているんですね?
- そうかも知れません。最近はよくオンラインで子供のマシンガントークや愚痴を聞いたりするのが楽しいです。メールの書き方の相談にのったり、大学の勉強の話をしたり、何でも言い合える仲の良い家族だと私は思っています。
- 最後に皆さんに一言お願いします
- まずは自分にとって没頭できるものや好きなものを見つけてください。これだと思うものを見つけたら、勉強して調べてとことん突き詰めてください。そしたら自然と進むべき道が拓けてくるはずです。
計算のことであれば私にできることはお手伝いしますので、ご相談ください。