2024.11.1 取材
(所属、役職は取材当時)
- 原子力機構で働く人 -
超小型AMS開発チーム(東濃地科学センター)
「世界中の皆がAMSを知っている未来をつくりたい!」この想いが私たちの原動力ですと、明るい笑顔で前へ進み続ける東濃の超小型AMS開発チーム。図面を引くところからスタートし、実用化に向けてあと一歩のところまで開発を進めてきました。今回は令和6年11月15日にプレス発表した、超小型AMS開発チームの神野さん、藤田さん、島田さんにお話を聞いてきました。
左から神野さん、藤田さん(以下敬称略)
- 超小型AMS開発チームが行っている研究内容を簡単にご紹介ください
- 神野「AMS (Acceleration Mass Spectrometer=加速器質量分析装置)は、試料中の微量元素を高精度で測定する装置です。従来この装置は加速器を使用するため、放射線管理区域内で管理を行わなければならず、設置にもバスケットコート程度の広さが必要でした。私たちは、加速器を使用せず、超小型でコスト効率よく放射性炭素分析ができる「卓上型システム」を一から作り出す開発をしています。」
島田「今までのAMSは高性能でめっちゃ大きく、価格も高かった。だから、化石の年代測定を行う場合、現場で採取した試料を実験室へ持ち帰り、試料を厳選して測定するといったように、分析できる場所も試料も限定されることが課題でした。この装置を性能そのままで小型・低価格にすることができれば、AMSはもっと世の中に広く普及するし、例えば、遺跡の発掘場所に装置ごと持ち込んで、その場ですぐに測定・結果考察といったことが可能となるかもしれません。その結果、研究のイノベーションが起きると思います。」
藤田「AMSの小型化に関する研究開発は他の機関でも行われていますが、この大きさ(1.9m×1.9m)の開発に成功したしたのはJAEAだけです。世界で初めてアイディアを実証し、先日プレス発表しました(https://www.jaea.go.jp/02/press2024/p24111502/)。正真正銘世界でたった1台しかない装置がここ東濃にあります。」
- 超小型AMS開発チームの体制を教えてください
- 藤田「現在のチームメンバーですが、神野さんと私の他に松原さんが開発に関わっています。それから、もう一人アドバイザーとして客員研究員の木村先生にも協力していただき、主に4人で開発を行っています。なお、一緒にインタビューを受けている島田さんは、私たちが所属するグループのリーダーで、開発に関して色々アドバイスをくださっています。超小型AMS開発の研究は、平成30年度に採択され始まったプロジェクトですが、チーム設立当時は3人で開発を進めていました。実は神野さんは途中加入なんですよね。」
神野「はい。当時、私は東海村にある東京大学原子力専攻で助教の職に就いていました。施設の共同利用に関する窓口業務を行っていたため、多数の供用施設を有するJAEAとは元々繋がりがありました。原子物理やビーム物理のバックグランドも持っていたこともあり、研究者同士のネットワークを通して今の職場に巡り合いました。」
- 神野さんが加入された時の正直な感想は?
- 島田「優秀な方が来てくれて、これで研究が進むぞ、と思いました。」
藤田「異なるバックグランドや新たな視点を持ったメンバーが増えることで、研究の幅が広がることに大きく期待しました。」
神野「期待いただいてありがとうございます。色々な装置を使用した経験がありますが、AMSに関しては素人でしたので、色々勉強させてもらっています。」
神野さんと東濃のイメージキャラクターのもぐら博士
-
☆島田さんが席を外されましたので、ここからは神野さん・藤田さんのお二人へのインタビューを続けます☆
(島田さん、ご協力いただきありがとうございました)
- 超小型AMS開発について教えてください
- 神野「何もないところからのスタートでしたので、図面を引くところから始めました。自分で装置を作った経験があるメンバーばかりですが、それでも簡単にはいきませんでした。電気が通れば第一歩、ビームが出れば第一歩、そうやって一歩ずつ積み重ねていきました。装置を組み立てたら、今度は現存のAMSの性能に近付けるため、何度もシミュレーションを繰り返しました。今やっと小型でも半分程度の性能を出すところまでたどり着きました。」
藤田「今はAMSの性能に近付けるよう、精度を着実に積み重ねているところです。現状の課題に対して解決法が見つかったら、一気に実用化に近づくと思います。」
開発中の超小型AMS
- 上手くいかない時、どうやってチームで乗り越えていますか?
- 藤田「うまくいかない時でもみんなで落ち込む…という展開にはなりません。それよりも、何が起きているのか、どこに原因があるのかを想像しながら試行錯誤して対策を考えます。どこに正解があるのかやってみないと分からないので、チームメンバーがひらめいた案は全部試すようにしています。」
神野「チーム内のバランスも良いと思います。藤田さんは決断力があって、早い。」
藤田「早いけど、たまに間違えたりもします。神野さんはもくもくと慎重にやる人です。他のメンバーも慎重派が多いので、私がどんどん意見を言うのを皆がなだめながらコントロールしてくれます。」
神野「藤田さんが私たちをどんどん引っ張ってくれるので、慎重派からしたらとても心強いです。」
藤田「そう言ってもらえて嬉しいです。超小型AMSチームもそうですが、東濃全体も雰囲気がとても良いと思います。東濃には2つの研究グループがありますが、グループ関係なく風通しがよい。居室で相談をしていると、私の声が大きいこともあり、あちこちから答えが返ってきます。一人で悩むということは少なく、必ず誰かが相談にのってくれます。」
- 研究をやっててよかったと思う瞬間を教えてください
- 神野「装置が初めて動いてデータが取れた時には、研究をやっててよかったと思いました。たとえ結果が期待しているものと違っても、
何かしらの発見があって、それがまた次の研究に繋がる可能性があります。何がどう繋がるか分からないからこそ研究は面白いのだと思います。」
- 研究者になっていなかったら、今何をしていると思いますか?
- 藤田「先生です。昔の話ですが、小学生の時は小学校の先生になりたかったし、中学生の時は中学校の先生になりたかったです。
最近業務の一環で、大学で非常勤の先生をやっていますし、地元のイベント対応で小学生に実験を教える機会もあるので、
先生という夢は見事叶っています。」
神野「私は作るのが好きなので、きっと大工さんになっていたと思います。今まで作った中で一番嬉しかったのは、
博士課程の時に開発した「イオン蓄積リング装置」です。今でも後輩が実際に実験に使ってデータを出していますし、論文が引用されたら嬉しいです。
でも超小型AMSが完成したら、嬉しさではイオン蓄積リング装置を超えると思います。」
藤田「私も小さい頃、「作る」ことに興味を持っていました。壊れた炊飯器を分解して直すのに熱中していた記憶があります。」
神野「藤田さんは昔から楽しいことにどんどん取り組んでいそうですね。」
藤田「そうかもしれないです。今の私がそっくりそのまま小さくなった姿を想像してもらえればと思います。神野さんは…」
神野「普通の大人しい子でした。」
藤田「そうだと思いました!」
- 最後に、今後の意気込みをお願いします。
- 神野「AMSを手軽に扱える小型分析装置として普及させていきたいです。高レベル放射性廃棄物の地層処分事業や防災分野、
地質学など放射性炭素年代測定を身近なものとして使ってもらえるよう、実用化に繋げていきたいと思います。」
藤田「そうそう。AMSを世界中に普及させて、小・中学生を含めた全員がAMSを知っている、そんな世界にしていきたいと思います。」