2022.12.6 取材
(所属、役職は取材当時)

- 原子力機構で働く人 -

大澤 崇人(物質科学研究センター)

「物事のルーツに興味が尽きない」と笑顔で語るJAEA物質科学研究センター研究主幹の大澤さん。JAEAが所有するJ-PARC やJRR-3を活用して小惑星リュウグウの試料分析を行い、地球の生命や海の起源の解明に取り組んでいます。

リュウグウ分析に繋がるまでのルーツを紐解くと共に、誰も知らない大澤さんの素顔に迫ります。
これまでずっと地球惑星科学を研究されていたのですか?
実は元々は文系を志望していました。芸術家か哲学者になりたかったので、高校では理系からの文転を考えていました。東京藝術大学で美術品や文化財の保存科学をやれば、理系でも文系に近いことができるのでは、と考えたりしました。最終的には、変わったことをやりたかったのと、将来性があることを重視して、大学院では地球惑星科学分野を専攻しました。
地球惑星科学分野ではどんな研究を行うのですか?
地球外物質、具体的には地球に降り注ぐ宇宙の塵、宇宙塵の分析を行っていました。宇宙塵は宇宙空間を回りながら落ちてくるのですが、この時、水素やヘリウムを主成分とするプラズマの風(太陽風)を受けるので、宇宙塵の表面にはヘリウムなどが蓄積します。だから、宇宙塵の中に含まれるヘリウムなど希ガスの同位体比を分析することで、それが宇宙起源なのか地球起源なのかを判定できます。大学では、この宇宙塵を南極の氷の中から探し出してきて、実体顕微鏡で一日中観察を行っていましたね。ここでの地道な分析の経験が、後のリュウグウ試料の分析に繋がっているのだと思います。
リュウグウ分析にどのように繋がったのですか?
私が修士2年の時に、はやぶさ計画(MUSES-C)が本格的にスタートしました。その中で宇宙科学研究所(2003年にJAXAに統合)が、はやぶさが小惑星から回収した試料を分析する研究機関を公募したのですが、所属していた研究室がそれに応募しました。何だか分からない試料が送られてきて、それを分析してくださいっていうんですね。この試料を分析する手法と宇宙塵を分析する手法が全く同じだったんです。真空中で試料をレーザーで叩いて蒸発させ、希ガスを質量分析計で分析しました。宇宙塵の分析経験があったからこその合格だったと思います。就職してからは質量分析から離れてしまったのですが、ミュオンや中性子を用いた分析手法の研究開発を行ってきました。それらが、はやぶさ2の分析においても有効であることが分かり、今のリュウグウ分析に繋がりました。
次はどんな分析がしてみたいですか?
太陽系のすべてが謎なので、宇宙に関わる色々な分析を行ってみたいです。なんで惑星ごとにあんなに顔つきが違うのか?なんで太陽系はこれほど不均一なのか?もう本当に興味が尽きない。1つのプロジェクトで1つ謎が解明されると、2つ以上の新たな謎が生まれます。謎が多すぎて全部解明することは不可能ですが、少しでも解明できればと思っています。
実際に宇宙にも行ってみたいと思いますか?
そうですね。誰も到達したことがない火星とかに行ってみたいです。木星の衛星に行くとか。前人未踏の誰も見たことがないような景色を見たいです。
原子力機構に到達した道のりを教えてください
自分は性格的にサラリーマンには向いていないと思ったので、選択肢は色々考えました。チャレンジという意味で自衛隊の幹部候補生も受験したことがあります。おそらく体力面で落とされてしまいましたが。ただ最終的には宇宙のルーツ解明にどっぷりとはまっていたこともあって、そのまま博士課程に進学しました。その後、世界最高強度のミュオンビームを利用できるJ-PARCや、強力な中性子源である研究炉JRR-3を持つ原子力機構に就職を決めました。
これまでの経験を基に皆さんにアドバイスをください
一寸先は闇です。だから、将来性が期待できる分野を目指すことが大切かなと思います。
その分野を選択することがベストかは分からないけど、少なくともその時点で最も将来性が見込めると思しき分野を選んでください。人事を尽くせば後悔はないです。先を見通す能力を磨いてください。
最後に大澤さん自身について分析を行ってください
実はすごく飽きっぽい性格ですが、一貫して宗教とか歴史(古代史)には興味があります。宗教って文化の根源に繋がっていて、宗教の起源を探ることは人間のルーツを知ることに繋がっています。宇宙も同じで、どのようにそれが誕生したのかに興味がある。つまり私の根底にあるのは物事のルーツへの探求だと思っています。誰も解き明かしたことがないルーツの解明をこれからも行っていきたいですね。

ありがとうございました

関連リンク

素粒子ミュオンにより非破壊で小惑星リュウグウの石の元素分析に成功
-太陽系を代表する新たな標準試料となる可能性-
https://www.jaea.go.jp/02/press2022/p22092301/

J-PARC MLF ミュオン科学実験施設でのリュウグウ試料の分析が始まりました:
https://www2.kek.jp/imss/news/hayabusa2/news/20210701_muonD2/

ミュオン分析チームの写真・動画:
https://www2.kek.jp/imss/news/hayabusa2/gallery/mlf01.html#MUSE_D2

「地球に生命をもたらしたもの」が 小惑星の探査で分かるわけ~小惑星探査機はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウ試料の分析~:
https://www2.kek.jp/imss/news/2021/highlight/0602AsteroidRyugu/

KEK物質構造科学研究所の特設サイト「はやぶさ2微粒子分析」:
https://www2.kek.jp/imss/news/hayabusa2/

researchmap
https://researchmap.jp/read0150793