日本原子力研究開発機構知的財産ポリシー
知的財産の権利化・維持とその利活用等のための基本的な考え方を「知的財産ポリシー」として制定しています。
日本原子力研究開発機構(以下「機構」という。)は、第3期中長期計画において、「国立研究開発法人として、自らの研究開発成果の最大化を図ることはもとより、大学、産業界等との積極的な連携と協働を通じ、我が国全体の原子力科学技術分野における研究開発成果の最大化に貢献できるよう」取り組み、「その成果を広く国民・社会に還元するとともに、イノベーション創出につなげる。」としている。
論文発表等は、機構の研究開発成果を学会等を通じて社会に示していく重要な手段の一つであるが、その最大化を図りイノベーション創出につなげるためには、産業上利用価値があるものを知的財産として権利化し、産業界等のニーズを把握した上で活用を図ることが機構の研究開発成果を社会へ定着させるために有効な手段となる。
特に特許化は、専門性が高い研究開発成果について、その制度を通じて産業界に理解を促し、事業化に向けた動機付けとなるとともに、特許を媒介とする産業界等との共同研究、競争的資金獲得のための連携等を通じてオープンで闊達な意見交換も誘発し、機構の研究開発を発展させる重要な契機となり得る。
この観点から、機構における知的財産の権利化・維持とその利活用のための基本的な考え方について、知的財産ポリシーを定める。
機構の職員等が、機構の研究開発として実施した成果により生じたものであって、知的財産権として保護されるべき発明等については、職務発明等とし、その知的財産に係る権利は、原則として機構に帰属する。
機構が特許を取得する場合は、特許取得自体が目的ではなく、利活用できるものとして出願・登録することが重要である。よって、権利化に当たっては、②以下のとおり、研究部門や拠点の特性等を考慮しつつ産業界等のニーズへの活用という点を重視して判断するものとする。
ただし、機構の研究開発等は、原子力基本法の原則に基づきその平和利用が求められていることなどから、公知化が伴う権利化になじまない研究開発成果については、(4)記載のとおり厳格に管理する。
特許出願に当たっては、例えば、研究開発の対象が原子炉技術という理由だけでその出願分野を決めるのではなく、個々の出願ごとに既存の特許群と比較し、出口戦略を十分に検討した上で権利化するか否かを決め、原則として実施許諾が期待できる分野において権利化する。
機構において、特許取得そのものが奨励され、人事評価、業績審査等に反映され、また「安全保障」という漠然とした表現が取得・維持基準として適用された時期があった。その時期には、原子力プラント関連の技術開発からの派生技術は、原子力の中核的技術とみなし、特許取得する傾向があったが、原子力分野は参入企業が少ないなど結果的に実施許諾につながらないことが多かった。
今後は技術の機能面に着目して企業等からの実施許諾の申込みが期待できる出願分野かどうかなどの点を意識して取得・維持することとする。
他方、原子力プラントに係る中核的な技術には外国企業からの模倣等による権利の侵害が生じるおそれがあるため、高速炉等、機構の中長期計画等で、当該技術を具体化する計画が明確に示されている場合、及び原子力産業メーカー、電力業界等から外国企業への対抗などの理由により明確な特許取得又は維持要望がある場合には、社会への貢献度を明確にした上で機構として取得・維持する。
また、競争的資金の応募に特許が必要な場合や、企業との共同研究につながる可能性がある場合には、これらに係る特許を取得・維持する。
以上のことを踏まえて、権利の取得又は維持の基準については、具体的表現とするなど所要の見直しを行う。
上記①から③までを勘案し、知的財産の権利化を行う際には、利活用の見込みがある分野か否か、他の技術との優位性、実施許諾の見込み、対象とする市場、企業からの要望、競争的資金の応募・実施への必要性、公知化せず管理する有用な技術情報(ノウハウ)の確認、秘匿又は公知の事実化の選択との比較なども総合的に判断し、出願及び維持の可否を決定することとする。
知的財産権の取得や利活用の方向性として、基礎研究やプロジェクトといった研究開発目的の違い又は研究開発を実施する拠点の特性を考慮し、研究開発成果の利活用を効果的に進める。
プロジェクト型の研究開発部門では、一般技術としての適用可能性検討のほかに、前述の外国企業を意識した原子力産業メーカーからの明確な要望や実用化まで長期間を要することも考慮する。
拠点の場合には、地域企業の要望に応じ、利活用可能な特許を保有する他拠点と連携した事業化や当該地域固有の事情にも対応できるようにする。
このほか、福島部門の廃炉関係技術では、今後、企業等との共同研究を通じて各種の既存技術と機構の研究活動から生み出された技術を複合した特許が想定されるが、その際には機構が複数の共同研究者との連携において中核的な役割を果たすなどして共願を進める等により対応する。
本ポリシーを実施するため、現行の知的財産取扱いに係る規程等の必要な改正又は整備を行う。また、知的財産の利活用を期待する企業への対応等を一括管理するとともに、インセンティブが働く評価制度や利活用促進活動への予算的支援等のあり方を検討し、研究者の研究遂行及び知的財産を利活用する活動への意欲の向上を促す。
この他、人事部が行う研修制度等も活用し、研究者等を含めた関係者が、発明者又は創作者としての権利の保障、産学連携活動と知的財産関係の制度及び手続等への理解を深めるとともに、機構の職員等の責務の一つとして、知的財産の効率的・効果的な活用を通じて社会貢献に資するという知財マインドの醸成を図る。
機構で取り扱う知的財産権は、特許権以外に、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の権利も対象としている。また、知的財産には研究成果物など対象も広がってきている。
さらに、機構として公知化できない技術もある。これらの中には、関係法令に基づき、特に軍事転用のおそれがあるものを中心として核不拡散に関する技術、輸出貿易管理上の制約がある技術、技術競争力確保等により秘密を要する技術等が含まれており、機構の核不拡散機微技術管理規程、輸出管理規程等により、非公知化はもとよりその内容について厳格な管理が必要とされている。
これらの知的財産やその権利に関しては、その対象や権利の種類によって、取扱いのスキームが異なるため、それぞれに適切な管理・活用を定めることとする。
なお、データベース、プログラム及びデジタルコンテンツ(論文・著書・報告書は含まれない。)の利用許諾又は譲渡(有償の場合を含む。)については、特許等の取扱いの原則に準じて、組織的に管理・運用する。
権利化を決定した知的財産については、機構の責任の下に出願から権利化までの手続、さらには技術移転活動等の交渉・契約に至る全般において、その事業化等を促進する。このため、外部の機関等との連携も含めて効率的・効果的に事業化につなげる方策を決定する。
従来、機構は、主に各種展示会への出展等を通じた情報の発信や成果展開事業等の制度によって保有する知的財産の利活用を進め、社会還元を図ってきた。すなわち機構の特許等を用いて事業を展開する企業を機構自らが発掘するという、シーズ型の手法である。
研究開発成果の最大化のためには、機構の研究開発活動から生み出された知的財産について、権利化されていないものも含めて、利活用を図っていくことが肝要である。
また、企業等からのニーズは新たな研究開発の創造への刺激になる要素もあり、その点について研究部門、拠点等に理解を促し、企業側のニーズに応じて権利化されていない研究開発成果も含めて柔軟に活用していくニーズ型への転換を図ることとする。
このために企業側のニーズが捉えやすいように4で述べる体制の構築とともに、地方公共団体、民間も含めた機構外の技術移転機関等との協力関係を構築し、技術移転活動を促進する。
なお、知的財産に係る情報の発信、成果展開事業の制度等従来から行ってきたもので有効と思われる手法は今後も改善しつつ継続する。
機構の職員等が生み出した知的財産の利用価値を更に上げるため、企業等との共同研究、競争的資金等への活用の促進を図る。
なお、共同研究等から生じた知的財産の取扱いについては、共同研究等の相手方と十分に調整の上、柔軟かつ効果的・効率的な活用ができるよう配慮する。
知的財産の社会への還元を促進する方策の一つとして、起業による発明の事業化も積極的に活用するなど、ベンチャー支援制度などにより成果活用型起業を支援する。
知的財産の活用は、それが利用される産業分野における企業活動の違いや、各企業の知的財産活用方針の多様性を考慮することが不可欠である。従って、機構における知的財産の発掘・権利化・管理・活用も各企業の特徴に最大限配慮できる体制を構築することとする。
このため、機構全体の情報を一括管理する体制を敷き、企業からの個々のニーズに職員等が応える場合の効率性を向上させるとともに、職員等の負担を軽減させる。また、機密性等各種の企業の要望に柔軟に対応し、他機関との協力も含めて総合的に推進する体制の構築を目指す。
これらの他、必要に応じて機構外との協力も視野に入れ、競争的資金や各企業との共同研究の活用等も含め総合的に知的財産の利活用を推進する。
上述した活動も含め機構内外を総合的にプロデュースする経験豊かな者(プロデューサー)を外部から採用し、この者が企業等との橋渡しを推進する産学連携コーディネーターやビジネスコーディネーター等関係者の核となり、機構全体の知的財産の利活用を総合的にマネジメントする。
また、プロデューサーは、個別の利活用事案についてもその計画の実現性をモニターしながら、機構外との協働も視野に入れ、必要に応じて、各研究部門、拠点、事業計画統括部等に対して、その専門的見地から選択と集中を主導することを目指す。機構内にはこのプロデューサーをサポートする体制を構築する。
以上